辺境の19世紀末と恋―クヌート・ハムスン『ヴィクトリア』を読みました
こんにちは、タチバナです。
本日は先日の猛烈な台風21号による停電の中、懐中電灯の光のもとで読み終えた本、クヌート・ハムスンの『ヴィクトリア』についてお話ししたいと思います。
「愛に似たものは世界にふたつと存在しない」──城の令嬢と粉屋の息子、幼なじみのふたりをしだいに隔てる階層の壁。世紀末ノルウェーの森で、秘められた思いと幻想が静かに燃える。大自然の中から突如として現れ、北欧に新ロマン主義を巻き起こした大地の作家クヌート・ハムスン(1859―1952)の、もっとも美しい恋愛小説。
タイトルも作者名も全く知らなかったのですが、訳者が数少ない北欧文学の翻訳者として知られる冨原眞弓先生(本来のご専門はフランス哲学だそうです)でしたので、これは読まなければ!と思い手に取りました。
私、なんとなく北欧の作品が好きなのです。
作品概要
あらすじ
舞台は19世紀末のノルウェー。
粉屋の息子ヨハンネスは、領主の娘でお城に住んでいるヴィクトリアに幼い時からずっと恋をしています。
ヴィクトリアも同様に彼を好いているのですが、しかしそれは許されざる恋。
お互いの身分や家庭の状況、気持ちのすれ違い、死などによって何度も阻まれる2人―その秘められた悲恋を描く作品です。
著者について
クヌート・ハムスン(Knut Hamsun, 1859-1952)はノルウェーの小説家で、1920年にはノーベル文学賞も受賞しました。日本ではあまり馴染みがない作家かもしれませんが、『飢え』『土の恵み』『ヴィクトリア』をはじめとし、そこそこの数の作品が邦訳・出版されています。
この時代の作家というと比較的裕福な育ちの人が多い印象がありますが、ハムスンは貧困の中で育ったようです。
9歳のときに叔父のもとへ働きに出、教育をほとんど受けることもできないまま、虐待されながら5年間を過ごしました。その後2度の渡米(北欧からアメリカへの移民が激増していた時代ですもんね)を経て、1888年にコペンハーゲンに移住。1890年に出版した『飢え』が一躍ベストセラーとなり、作家としてよく知られるようになりました。
その後も作家として活躍した彼ですが、ナチス・ドイツを支持し続けたため、晩年にはその名誉を失ってしまったようです。
感想
美しい愛の物語
これは非常にふわっとした感想なのですが、第一に、「大変前時代的な作品だなぁ」と思いました。
まず、舞台は19世紀末なのですが、領主―領民という身分制度が描かれています。
歴史には明るくないのですが、おそらくこのころ西欧諸国やスウェーデン、イギリスなんかはすでにこのような制度は脱していたのではないでしょうか?
思い描いていた19世紀末のイメージと状況が少々異なっていたのでびっくりしてしまいました。
また、同時期の北欧の著名な作家として、スウェーデンのストリンドベリ(August Strindberg,1849-1912)やセーデルベリ(Hjalmar Söderberg,1869-1941)がいると思うのですが、彼らがかなり当時の社会問題をまざまざと描き出していたのに対して、この『ヴィクトリア』はかなり牧歌的というか題材にそこまで重みが無いというか…
「美しい田園風景と美しい女性、美しい愛」という部分に終始してしまってるんじゃないかなという感がありました。
ただ、決して作品自体が悪いわけではなくて、単純に私がこの作品の成立年代から勝手に先述のストリンドベリやセーデルベリ、はたまたイプセンのイメージを抱いて読んでしまったのが悪かったんだと思います。
後から調べてみたらハムスン、新ロマン主義に分類される作家なんだそうですね、どうりで。
ノルウェーの美しい自然やなかなか近代化が進まなかった歴史、それから著者自身が田舎で幼い時から働きづめで生活していたという伝記的背景がこのような牧歌的な物語を生み出すもととなったんじゃないかなと思いました。
19世紀末という時代設定からは想像しなかったような、のどかで完璧な愛のかたちを繊細に描いた物語でした。
印象に残ったシーン
個人的に最も印象に残った部分を紹介しますね。
主人公ヨハンネスはあるときカミーラという女の子と婚約をします。
彼女は非常に天真爛漫な明るい少女。
ヴィクトリアのことは忘れられないものの、ヨハンネスも彼女に癒されていました。
しかしある晩、パーティーから帰ってきたカミーラが動揺したように言うのです、
「あなたのことは好きじゃないなんて思わないでね。神さまに誓って。いまよりもっと頻繁に会いにきて、あなたの望むことはなんでもするから。ただ、彼のほうがもっと好き、それだけなの。望んだわけじゃない。わたしのせいじゃないの」
これ、すごいセリフじゃないですか!?!?!?
大変多くの女の子の心に刺さる発言だと思うんですよね。
なんだかこのシーンについていっぱい語りたい気がしてきました。
また別記事でお話するかもしれません…(笑)
それでは今日はこのあたりで。
- 作者: ヨーハン・アウグストストリンドベリ,Johan August Strindberg,内田富夫
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